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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)655号 判決 1975年1月17日

原告

田中石雄

ほか一名

被告

住友海上火災保険株式会社

主文

一  被告は原告らに対し各金二五〇万円および右各金員に対する昭和四七年一一月五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し各金二五〇万円およびこれらに対する昭和四七年一一月五日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和四七年九月一六日午後八時三五分頃

(二) 発生場所 名古屋市南区大同町一丁目一七番地先大同電話局前路上

(三) 加害車 訴外田中章治(以下単に訴外章治という)が保有し、訴外望月英(以下単に訴外望月という)が運転する小型乗用自動車(名古屋五み二二八二号、以下単に本件自動車または事故車という)

(四) 被害者 本件事故車に同乗中の訴外亡田中哲博(以下単に亡哲博という)

(五) 事故態様および結果

右日時頃台風二〇号の中を、右道路を未だ運転免許を取得していない訴外望月が、本件自動車を運転して北進中、強風のためハンドル操作を誤まり、中央分離帯に衝突、同分離帯に乗り上げ傾斜した際自動車の扉が開いて亡哲博の上体が車外に傾き、再び車が元の状態に戻るとき、一旦開いた扉が閉まり、亡哲博は扉と車体間に後頭部を挾まれ即死した。

2  損害

右事故によつて亡哲博は金五〇〇万円以上の損害を受けた。

亡哲博は死亡当時満一七才で愛知県立名南工業高等学校電気科二年在学中であつたので一八才に達し同校卒業後六三才まで就労可能であつた。

ところで昭和四五年賃金センサスによれば、新制高等学校卒業の男子の一八~一九才の企業規模計の平均月間給与額は金三万七、八〇〇円であり平均年間賞与等特別給与額は金三万八、三〇〇円であるからその二分の一を生活費として控除し、ホフマン式計算方式により年五分の中間利息を控除して計算した現価金五七一万三、六六四円となるところ亡哲博は右事故によりこれを失つた。

右計算式は次のとおり

(37,800×12+38,300)×1/2×23,231=5,713,664

3  訴外章治は、本件自動車を所有しこれを自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条により、また同人には後記の過失があつたから民法七〇九条により、前記損害を賠償すべき義務がある。

(一) 訴外田中章治は本件自動車を昭和四七年六月中旬頃訴外吉野茂夫から代金九万円五回分割払に買い受け右代金完済まで登録名義及び保険契約名義の変更はできなかつたものの買受後は通勤等のため専ら自己のためにのみ運行の用に供し、同居している両親の原告ら及び弟である亡哲博のために使用したことはなかつた。

(二) 本件事故当日の夕食後亡哲博のところにその友人四名が遊びに来たが、当日は偶々右亡人方の家族が全員在宅して部屋が空いておらず、また折から台風による風雨のため室外で談笑する場所もないため訴外章治が右亡人らに対し談笑する場所提供のため本件自動車の使用を許しその際寒かつたら暖房するようにとエンジンキーを提供したものである。ところが、訴外望月が無断で右自動車を運転し本件事故を起す予想外の結果になつたものである。

右事実に照らし訴外章治が予測しなかつたこととは云え、同人が本件自動車内で談笑することを許したことと、訴外望月がこれを運転して事故を起したこととは、本件自動車が訴外章治の運行支配下においてなされたものと解すべきである。

(三) 仮りに本件事故当時、本件自動車が訴外章治の運行支配下になかつたとしても、訴外章治は、亡哲博および訴外望月が原動機付自動車を運転できることを知つていたのであるから、本件自動車のエンジンキーを渡すことにより万一にも誰かが運転するかも知れないことに注意すべきであるのに、不注意にもそのような予測をせずキーを渡したことに本件自動車管理上の過失があつたというべきであるから、訴外章治には亡哲博の損害につき不法行為上の責任がある。

4  訴外章治は、訴外吉野茂夫から本件自動車について被告と締結されている証明書番号G―一〇一二五七号自動車損害責任保険契約の保険契約者の地位を、右自動車と共に承継し、被告もこれを承認していた。

5  原告田中石雄、同田中ミツコはそれぞれ亡哲博の父、母で亡哲博の死亡によつて同亡人の財産に属した一切の権利を承継した。

6  結論

そこで各原告は自動車損害賠償保障法一六条にもとづき被告に対し次の金員の支払いを求める。

(一) 自動車損害賠償責任保険金額五〇〇万円の損害賠償額の二分の一

(二) 右各金員に対する請求の日から三〇日を経過した日の翌日である昭和四七年一一月五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2同5は不知。

2  請求原因3の事実中訴外章治が本件自動車の所有者であることは認め、(一)の事実は不知、その余は争う。

3  請求原因4、6は争う。

三  被告の主張(抗弁)

亡哲博は本件事故発生のとき本件自動車につき自賠法三条にいわゆる運行供用者であつたから、同条の「他人」に該用せず、従つて本件請求は失当である。

1  亡哲博は事故時、事故車の運行支配を有していた。

(一) 亡哲博は本件事故当時その兄でかつ本件自動車の所有者である訴外章治およびその両親の原告らと原告ら住所地所在の三井東圧社宅に共同で居住していた。

(二) 本件事故当時中学の同級生の訴外望月、同庄山寿弘、同鶴田勝己その近所の友達訴外大谷良子らと親交がありボンド遊び等をすることもあつた。

(三) 右亡哲博は右望月と共に中学卒業後同じ職場でアルバイトをしたこともあり、望月が右職場等で自動車を無免許運転することを目撃して了知していた。

(四) また訴外章治は同人宅へ時々遊びにくる亡哲博の前記友達を哲博と共に本件自動車に同乗させてドライブすることが時々あり、そのときなどに望月が自動車の運転をしていることを同人から直接又は亡哲博から聞知していたと推測される。

(五) 事故発生の当日にも前記社宅に前記亡哲博の友人四名が遊びに来たが、台風が接近中であつたので、章治は原告石雄の依頼で本件自動車を運転して懐中電池を買いに行くこととなり、亡哲博とその友人らを同乗させて右買物に行き帰宅したが、哲博と友人らは部屋に入るより車の中で話し合う方がよいということで章治に本件自動車の一時借用を申し出で、借り受け、そのまゝ車内に留まつて談笑などしていた。

訴外章治も亡哲博が交つているので自動車のキーをキー穴にさしたまゝにして社宅内に入つてしまつた。

(六) その際、訴外章治は亡哲博らに対して何ら運転を禁止することをしないで却つて「寒かつたらヒーターをかけよ」と言つてセルモーターを始動してヒーターをかけることを教えたというものである。

しかし、台風が来て、降雨中であると言つても十代の若者がヒーターをかけなければならない程寒かつたとは考えられないし、狭い車内に四、五人蝟集していれば、暖かくなる筈で、現に結局亡哲博らはヒーターをかけなかつたのであるから、ヒーターのためにキーを残置したとは信じられない。

(七) 以上の諸事実を総合すると訴外章治は本件自動車をキーを付したまゝ何時でも運行の用に供し得る状態で、弟の亡哲博若しくは同人を含む同人の友人らのグループに貸与したものであり、亡哲博自ら、若しくは同人以外の誰かが亡哲博のために運行することを黙認していたものというべく、亡哲博若しくは右グループは本件自動車を右状態で借用してその支配下においたものである。

2  亡哲博は事故時本件自動車の運行利益を享受していた。

(一) 本件事故当日の前夜、訴外望月、同大谷は前記庄山の家に宿泊し、交互に男女関係をしたのであるが、翌日哲博方へ遊びに来て前記の表情により本件自動車に入り込んで話し合つたときに哲博に右事実を告げた。

(二) すると哲博は大谷に対し自分も関係させてくれと言つたところ、大谷は「ボンドを吸つてなら関係してもよい」と答え右ボンドを買いに、また望月ら友人らはこれに便乗して共にドライブをたのしむべく大同町方面へ本件自動車を運行して行くことになり、事実上運転のできる望月が運転して行く途中で本件事故が発生した。

(三) もともと哲博や同人を含むグループが話し合うために哲博の兄章治から本件自動車を借用したことは前述のとおりであり、この事実についても右借用の利益は右亡哲博に帰属するものと考えられるが、更に右(一)(二)所述の如く哲博がその欲望をみたすために必要なボンドを買求めに行くために、かつ哲博、望月ら親友がドライブを楽しむために右自動車を運行の用に供したのであるから同運行の利益は亡哲博もしくは右グループ各員に共通に帰属するものというべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

〔証拠略〕によれば左の交通事故が発生した事実が認められる。

1  発生日時 昭和四七年九月一六日午後八時三五分ころ

2  発生場所 名古屋市南区大同町一丁目一七番地先国道二四七号線大同電話局前路上

3  加害車 訴外望月が運転する本件自動車(トヨタカローラ)

4  被害者 本件自動車助手席に塔乗していた亡哲博

5  事故態様と結果

台風二〇号接近の影響によりかなりの強風が吹き荒れていた状況下、前記道路を時速約六〇キロメートルで北進中、右側からの強風のためハンドルを左にとられそうになり、慌てて右にハンドルを切り返したが、切り方が大き過ぎ、中央分離帯に激突して乗り上げ、車体が左側へ横転して一回転し、その際の衝撃により亡哲博は脳挫創(頭蓋底骨折)の傷害を受け即死した。

二  事故に至る経緯並びに本件自動車の乗り出し態様

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実が認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は信用しない。

亡哲博と訴外望月は中学の同級生であり、亡哲博は工業高校二年生、訴外望月は定時制高校一年生であつた。訴外望月は何回か就職したが長続きせず、事故時は職についていなかつた。同人は事故前日である昭和四七年九月一五日同じく中学の同級生で遊び友達である訴外庄山寿弘(高校一年生)の家に訴外大谷良子(中学二年生)と共に泊り込み、三名で交互に性行為を行なつた。翌九月一六日右三名は怠学して喫茶店で遊んだ後訴外鶴田勝己、亡哲博らと高校の「クラブハウス」で時を過ごし訴外鶴田、亡哲博両名がレコードを貸し借りするため先に帰つた後、その晩は田中宅で泊まる積りで三人連れ立つて同人宅(三井東圧株式会社社宅四階建ての二階、一階は車庫)へ赴いた。然し同人宅へは上がらず、車庫にあつた訴外章治(亡哲博の兄一九才)の車(トヨタカローラ、本件自動車)内で話をすることになり、訴外章治にドアを開けて貰つて、亡哲博と共に四人で車内に入り雑談をしていた。そのうち午後七時半頃接近中の台風二〇号の影響で風雨が強くなり、訴外章治は、原告田中石雄に命じられて懐中電灯用電池を買いに行くため車内に前記四名を乗せたまゝ往復二〇分位本件自動車を運転し、帰宅後下車する際、ヒーターでも使うようにとエンジン・キーをキー穴に差し込んでキーを回し、エンジンを作動させてヒーターの使用法を示したうえ、エンジンは止めたものの、そのまゝキーをキー穴に残置して、自宅内に入り、右四名は車内に居残つた。午後八時に亡哲博と訴外望月は近所の前記鶴田宅へ赴き同人を呼んで車庫へ戻り、五人で前同様に車内で雑談していたが、話題が望月、庄山の大谷良子との前夜の行動に及び、亡哲博も同女との関係を望んだところ、同女がボンドを吸わせてくれれば承諾する旨述べたので、そのことが契機となつて一同は本件自動車でボンドを買いに行くことに意見が一致した。右同乗者はすべていわゆるボンドを吸つたことのある経験者であつた。

然し、皆一八才未満で普通乗用自動車の運転免許を取得しておらず、偶々運転席にいた訴外望月も、自動二輪の免許しか持つていなかつたのであるが、同人は、以前アルバイト先の会社で普通乗用自動車の運転を練習したことがあり、亡哲博もその際同乗していたこともあつて、望月が本件自動車を運転することになり、助手席に亡哲博、後部座席に訴外鶴田、同庄山、同大谷を塔乗させて、強い風雨の中を時々稲光と共に雷鳴が轟く天候を意に介せず、南区道徳方面へ向けて乗り出した。亡哲博は望月がキーを回してエンジンを始動させる際兄に聞かれるとまずいという趣旨の言葉を述べたが、望月は意に介さずエンジンを始動させ、また他の者もボンドを買いに行くことで意見が一致していたため、それ以上亡哲博も異を唱えることなく、結局望月は亡哲博も含めた全員の意思に従つて運転を始めた格好となつた。訴外望月と同庄山とは両名共訴外章治と比較的親しく、訴外章治に本件事故の二、三日前、本件自動車に同乗させて貰いドライブしたことがあつた。亡哲博は原動機付自転車の免許を取得しており、「スズキスポーツ」(五〇CC)を買い与えられて度々運転していた。訴外望月は田中宅へ度々遊びに来ており、前記ドライブを共にしたこともあつて訴外章治は望月の無免許運転につき何らかの形で推測し得ない立場ではなかつた。

三  訴外章治の責任

〔証拠略〕によれば、本件自動車は、訴外章治が昭和四七年六月に訴外吉野茂夫から購入し、毎日通勤などに使用していた事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

被告は、亡哲博が事故時本件自動車の運行支配、運行利益を取得していた旨主張するので判断するに、訴外章治と亡哲博とは同居の兄弟であること、同亡人の年令、普通乗用自動車の運転経験のなかつたこと、本件自動車は前記認定の事情から一時的に乗り出したものであり、又亡哲博自らが運転したものでないこと、エンジン・キーは訴外章治がさして必要のないヒーターのために幾分軽率に残置して行つたものであること、訴外章治は訴外望月が無免許で普通乗用自動車を運転することがあることは知つていたと思われること、以上の事実を総合すれば、具体的乗り出しは訴外章治の予期しないところではあつても、客観的にみれば予期すべき状況であつたと認められるので未だ訴外章治の本件自動車に対する運行支配、運行利益が失なわれたものとは認められず、他方前記認定事実によれば亡哲博がある意味で運行利益を有していたことは認められるものの、もつぱら亡哲博の利益のために運行されていたとはいえず、また前記のとおり亡哲博は本件車両の乗り出しに若干の異議をとなえている事実、望月と亡哲博は同年令のいわゆる不良仲間で、いずれが強い支配力を有していたとも認められないことを総合すると本件車両の運行につき亡哲博が指揮、制御すべき立場にあつたとは認められず結局亡哲博が右運行支配を取得した事実も認めることができないから、右抗弁は排斥を免れない。

訴外章治は本件自動車を所有しこれを自己のため運行の用に供し、その運行によつて他人に損害を加えたものであるから、自賠法三条により亡哲博の死亡による原告らの後記損害を賠償する義務がある。

四  損害

1  逸失利益 金七五三万三、一五五円

〔証拠略〕によれば、亡哲博は昭和三〇年八月一九日原告ら夫婦の次男として生まれ、事故当時一七才の健康な男子で、愛知県立名南工業高等学校電気科二年に在学中であつたことが認められるから、亡哲博が収入を得るのは一年後に一八才に達し同校を卒業して後、四五年を経過した六三才までであると認めるのが相当である。昭和四七年賃金センサス第一巻第一表により全産業男子労働者平均給与額は、新制高等学校卒業の一八~一九才の者で、「きまつて支給される現金給与額」月額金五万〇、六〇〇円、「年間賞与その他の特別給与額」金六万円であることが認められるので、年額は金六六万七、二〇〇円となる。しかして同人の生活費としては収入の五〇パーセントと認めるを相当とするので、以上を基礎としてホフマン方式により年五分の中間利息を控除して同人の逸失利益の現価を算定すると次のとおりとなる。

667,200×0.5×〔23.5337(46年のホフマン係数)-0.9523(1年のホフマン係数)〕=7,533,155円

2  葬儀費用

本件事故による損害とすべき葬儀費用は、亡哲博の年令、社会的地位、家庭環境その他諸般の事情を考慮すると金二五万円を以つて相当とする。

3  過失相殺

〔証拠略〕によれば、亡哲博は、前記認定通りの態様で本件無免許でかつ無謀な自動車の乗り出しにきつかけを与えたうえ、望月の運転で走行を始めると間もなく、その運転が未熟であることが分かり、車内の者は危険を感じ、訴外大谷は同庄山に前を見るなと言われ、下を見ていたし、また訴外鶴田は恐怖のため目をつむつており、訴外庄山と亡哲博のいずれかはふざけ気味に「こいつの運転だと殺されるがやあ」などとも言つていた状態となつたのであるから、本件助手席に同乗中であつた亡哲博は、本件自動車の所有者の弟として、また同年令で親しい間柄の者として、運転中の望月に対し速度を落させ或は運転を止めさせるなど適宜な指示を与えて事故を未然に防止すべき義務があるのに拘らず、前記認定の乗り出し目的を維持したまゝ漫然前記危険状態を放任し何ら適切な対応措置を講じなかつた過失があつたことが認められる。

しかして、亡哲博の本件事故発生についての過失割合は全損害の四割と認めるを相当とするから、以上の損害合計金七七八万三、一五五円を金四六六万九、八九三円に減額する。

4  相続

亡哲博の相続人が、同人の両親である原告らであることは明らかであるから、原告らは各自、亡哲博の右損害賠償請求権の二分の一(金二三三万四、九四六円)ずつ承継相続した。

5  原告らの慰藉料 各金九〇万円

本件事故の態様、前記認定のとおり亡哲博に過失があつたこと、亡哲博の年令、家庭環境その他諸般の事情を考慮すれば、原告らの本件事故による精神的損害は各金九〇万円を以て慰藉するを相当とする。

五  被告の責任

〔証拠略〕によれば、被告は訴外吉野茂夫との間に本件自動車について保険証明書番号G一〇一二五七号の自動車損害賠償責任保険契約を締結していたが、本件事故は右契約期間中に発生したものであることが認められ、また訴外章治が右吉野茂夫から本件自動車を譲り受けたことは前記認定のとおりであるから、訴外章治は、商法六五〇条の定めるところにより、右保険契約に基づく被保険者としての権利を承継したものと推定されるところ、右推定を覆すに足りる特別な事情の認められない本件においては、訴外章治に本件自動車の保有者として前記損害を賠償すべき義務が生じたのであるから、原告らは本件事故の被害者として自賠法一六条により被告に対し前記認定の損害合計各金三二三万四、九四六円のうち保険金額の限度(事故当時金五〇〇万円)において損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができるところ、〔証拠略〕によれば原告らは被告に対し昭和四七年一〇月五日右請求の意思表示をなしたことが認められる。

六  結論

以上の次第であるから、被告に対する原告らの請求のうち各金二五〇万円およびこれらに対する原告らが被告に対する請求の意思表示をなした日の後であることが明らかで原告らの求める昭和四七年一一月五日から支払済みまで年五分の割合(自賠法一六条に基づく請求権は、同法によつて独立に認められた損害賠償請求権であり、商行為に基づくものではないから、右履行期経過による遅延損害金の利率は民法所定の年五分を以て算出するを相当とする。)による各遅延損害金の支払いを求める限度においては正当であるからこれを認容し、その余の部分は理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫 安原浩 小池洋吉)

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